深夜、何をしても泣き止まない、ママも限界で怒鳴り声が響く……そんな地獄絵図のような状況を打破する最強のソリューションは、パパが子供を抱きかかえて「真冬の外気に当てること」です。これ、冗談抜きで効きます。物理的な環境の変化と、肌を刺すような冷たい空気が、パパっ子でもママっ子でもない「野生の生存本能」にスイッチを入れるのか、驚くほどスッと泣き止むのです。
我が家の次男、通称「ブー」は現在1歳を過ぎたところ。この子がまた、なかなかの強者でして。長男のスグが「のび太くん」並みに5分で寝て朝まで爆睡するタイプだったのに対し、ブーはとにかく睡眠が浅い。ちょっとした物音で起きるし、一度目が覚めると「ママじゃなきゃ嫌だ!」という強烈なママっ子属性を発動させます。
ある2月の深夜1時。都内の2LDKマンションに、ブーの鼓膜を突き破るような絶叫が響き渡りました。
怒号が飛び交う深夜1時のリビング
その時、私は仕事の追い込みでリビングの隅でキーボードを叩いていました。IT営業という仕事柄、日中は客先を回り、夜はリモートで資料作成という毎日10時間オーバーの勤務がデフォルト。そんな私にとって、深夜の静寂は貴重な執筆時間なのですが、ブーの叫び声がそれを無慈悲に切り裂きます。
寝室からは、妻ジンの悲鳴に近い怒鳴り声が聞こえてきました。「もう!なんで寝ないの!うるさい!静かにして!」
ジンは中国南部出身で、普段は明るく、東北弁のような訛りのある日本語でよく喋るひょうきんな女性です。経理の仕事をしつつ税理士試験の勉強までこなす努力家ですが、睡眠不足にはめっぽう弱い。もともと「気にしい」な性格もあり、深夜にブーが騒ぐと「近所の周さんに迷惑がかかる」「隣の人に怒られる」というプレッシャーで追い詰められてしまうのです。
寝室を覗くと、そこはカオスでした。ジンは髪を振り乱してブーを抱っこしていますが、その顔はもはや般若。ブーは反り返ってギャン泣き。さらに、同じ部屋で寝ているはずの長男スグは、この騒音の中でも「グー……」と高いイビキをかいて爆睡しています。スグの睡眠の深さだけは、本当に我が家の救いなのですが、今の問題はそこではありません。
ブーの泣き方は、お腹が空いたわけでも、オムツが汚れているわけでもない。完全に「睡眠サイクルが狂って、自分でもどうしていいか分からなくなっている」状態でした。
迷わずダウンを着せて、氷点下の外へ
「ジン、代わるよ。一回外に出してくる」
私はそう言って、半狂乱の妻からブーをひったくるように受け取りました。ジンは「こんな時間に外!?風邪引くでしょ!」と訛りのある声で食ってかかってきましたが、「ここにいてもブーは泣き止まないし、ジンも爆発するだけ。5分で戻るから」と強引に押し切りました。
正直、私も眠いし、明日の朝も早い。でも、ここでパパが動かなければ、この夜は永遠に終わりません。
私は自分のダウンを羽織り、ブーには厚手のカバーオールを着せ、さらに上から防寒ケープでぐるぐる巻きにしました。玄関を出て、エレベーターを降り、マンションの外へ。
一歩外に出た瞬間、2月の鋭い空気が顔を打ちました。スマホの天気予報を見ると気温は氷点下3度。吐く息は真っ白です。
「ブー、寒いな。でも、ちょっとだけ我慢してくれ」
腕の中のブーは、外に出た瞬間にピタッと泣き声をやめました。さっきまでの絶叫が嘘のように、「フ、フ……」と鼻を鳴らしながら、不思議そうに夜の街を眺めています。
氷点下10分の魔法
深夜の都内、静まり返った住宅街を、私はブーを抱っこして歩き始めました。足音だけが響く中、ブーの体温がダウン越しに伝わってきます。
この「外気冷却作戦」には確信がありました。実は4年前、長男のスグが同じように夜泣きで荒れていた時期、私は何度もこの方法に救われていたのです。スグは当時からひょうきんでワガママな性格でしたが、夜泣きに関しては一度スイッチが入ると手がつけられなかった。あの時も、真冬にこうして外を歩きました。
冷たい空気を吸うと、脳がリフレッシュされるのか、あるいは極限の寒さに対して体が「今は泣いている場合じゃない」と判断するのか。医学的な根拠は分かりませんが、とにかく子供のパニックが鎮まるのは事実です。
ブーは大きな目をキョロキョロさせて、街灯の光や、深夜に走り去るタクシーを眺めています。1歳を過ぎて「ブー、ブー」と言っていたのが、最近では「エベ!エベ!」と謎の言葉を発するようになった彼。私の腕の中で、冷たい風に吹かれながら、次第にその目がトロンとしてきました。
「……あ、落ちたな」
抱っこの重みがずっしりと増した瞬間。ブーの意識が夢の中に吸い込まれていくのが分かりました。散歩を開始してわずか10分。家の中で1時間以上格闘していたのが馬鹿らしくなるほどのスピード解決です。
パパの役割は「環境の分断」
マンションに戻り、寝室へ。そこにはベッドでうつ伏せになり、今にも泣き出しそうな背中をした妻ジンがいました。
「寝たよ」と小声で伝え、眠りについたブーをそっと布団に横たえます。ブーは一度「ムニャ……」と動きましたが、そのまま深い眠りへと落ちていきました。
ジンは顔を上げ、「ごめん、言いすぎた。助かったわぁ……」と、消え入りそうな声で言いました。彼女も分かっているのです。怒鳴っても解決しないことは。でも、極限状態では感情をコントロールできない。それが子育ての現実です。
なぜこの時、パパの出番が必要だったのか。
それは、ママと子供の間にある「負の連鎖」を物理的に断ち切るためです。ママのストレスは子供に伝わり、それが子供の不安を煽ってさらに泣かせる。その泣き声がさらにママを追い詰める。このループに入ると、家の中という閉鎖空間ではもう出口がありません。
パパがすべきことは、育児のノウハウを語ることでも、ママを諭すことでもありません。ましてや「もっと優しく言いなよ」なんてアドバイスは火に油を注ぐだけ。正解は、問答無用で子供を物理的に別の環境へ連れ去ること。それだけでいいんです。
外の寒さは、火照った親子の頭を冷やす冷却材になります。特に仕事で忙しいパパにとって、平日の夜泣き対応は辛いものがありますが、実は「外に10分出るだけ」で事態が収拾するなら、家の中で1時間揉めるよりずっと効率的だと思いませんか?
睡眠サイクルをリセットするために
翌朝、スグは相変わらず何もなかったかのように元気に起き出し、大好きなピタゴラスイッチの装置を作り始めました。「ブーくん、昨日えべえべ言ってたね!」と笑いながら。ブーも昨夜のパニックが嘘のように、朝から食欲全開でパンを頬張っています。
昨夜の氷点下散歩は、間違いなくブーの狂った睡眠サイクルを強制リセットしてくれました。
もし、今夜もあなたの家で深夜の絶叫大会が始まったら。そして隣でママが限界を迎えていたら。迷わずコートを羽織ってください。そして子供を抱いて、真冬の夜風に当たりに行ってみてください。
そこにあるのは、凍えるような寒さと、それ以上に穏やかな静寂です。
「パパが連れ出してくれる」という安心感は、実は子供以上に、ママにとっての大きな救いになります。言葉で「大丈夫だよ」と言うよりも、行動で「今は俺が引き受けるから休んで」と示すこと。それが、2LDKという限られた空間で家族が笑顔で過ごすための、私なりのノウハウです。
さて、今夜はブーがすんなり寝てくれることを祈りつつ、私はまた深夜の副業ウーバーイーツか、あるいは溜まった営業資料の作成に戻ることにします。